「採用に手が回らない」「入退社の手続きが総務に溜まっている」。人事機能が整わないまま組織が拡大し、社長や現場が人事業務を抱え込んでいる中小企業は少なくありません。結論として、人事代行は月10万円前後から採用・労務まわりの実務を外部化できる手段で、専任の人事を雇う前の中間解として有効です。本記事では、依頼できる業務範囲、費用相場、採用代行(RPO)との違い、失敗しない選び方を解説します。
人事代行とは?依頼できる業務範囲
人事代行(人事アウトソーシング)とは、採用・労務・教育といった人事業務の一部または全部を外部の専門会社に委託することです。依頼できる主な業務は次のとおりです。
- 採用業務:求人票の作成、媒体運用、応募者対応、面接日程調整
- 入退社手続き:雇用契約書の作成、社会保険・雇用保険の手続き
- 勤怠・給与まわり:勤怠集計、給与計算(社労士と連携)
- 労務相談:就業規則の整備、労務トラブルの一次対応
- 教育・評価:研修の企画運営、評価制度の運用サポート
なお、社会保険手続きの申請代行は社会保険労務士の独占業務のため、社労士資格のない代行会社は書類準備までの対応になります。給与計算の外部化は給与計算アウトソーシングの記事で詳しく解説しています。
業務別の「代行でできること・できないこと」早見表
委託先を検討する際に混乱しやすいのが、代行会社と社労士の役割分担です。主な業務ごとの対応範囲を整理すると次のようになります。
| 業務 | 人事代行会社 | 社労士(提携) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 採用実務(媒体運用・日程調整) | ○ | − | 媒体費は別途 |
| 雇用契約書の作成補助 | ○ | ○ | 雛形整備・発行管理まで |
| 社会保険の申請代行 | ×(書類準備まで) | ○ | 社労士の独占業務 |
| 勤怠集計・給与計算 | ○ | ○ | 年末調整は税理士領域に注意 |
| 就業規則の作成・届出 | △(整備支援) | ○ | 作成・届出は社労士 |
| 研修・評価制度の運用 | ○ | − | 制度設計は要件次第 |
例えば入社1つとっても、健康保険・厚生年金保険の「被保険者資格取得届」の提出が必要になるなど、入退社は法定手続きの塊です。手続きの流れは日本年金機構「就職したとき(資格取得)の手続き」で公開されていますが、こうした期日のある定型業務こそ、抜け漏れ防止の観点で外部化との相性が良い領域です。社会保険まわりの委託範囲は社会保険手続き代行の記事も参考にしてください。
人事代行の費用相場
委託範囲別の月額目安は以下のとおりです。
| 委託範囲 | 月額目安 | 向いている会社 |
|---|---|---|
| 入退社手続き・労務事務のみ | 3万〜10万円 | 従業員数名〜、まず事務負担を外したい |
| 採用業務の実務代行 | 10万〜30万円(媒体費別途) | 採用を動かしたいが担当者がいない |
| 人事業務全般(採用+労務) | 20万〜50万円 | 人事機能そのものが不在の成長企業 |
人事担当者を1名採用する場合の人件費(月30万円超+採用コスト)と比べると、必要な業務だけを切り出して外部化できる分、立ち上げ期の企業には費用対効果が高い選択肢です。
モデルケース:従業員15名の会社の年間コスト比較
従業員15名・年間採用5名の会社が「人事担当1名を採用する場合」と「人事代行(採用+労務)を使う場合」を比較した試算例です。
| 項目 | 人事担当1名を採用 | 人事代行(採用+労務) |
|---|---|---|
| 月額コスト | 約35万円(給与30万円+法定福利費) | 25万円 |
| 初期コスト | 採用費50〜100万円+育成期間3〜6ヶ月 | ほぼ0円(最短2週間で稼働) |
| 退職・属人化リスク | あり(1名依存) | 低い(チーム対応) |
| 年間コスト目安 | 約470〜520万円 | 約300万円 |
もちろん、事業規模が拡大して人事業務が常時フルタイム相当になれば内製化の方が安くなります。分岐の目安は「従業員30〜50名、月間の入退社・採用対応が常時発生する規模」です。それまでの期間を代行でつなぐのが、コストと品質のバランスが良い進め方です。中小企業庁「中小企業白書」でも構造的な人手不足が指摘されており、人事担当者の採用自体が難しくなっている今、「採用できるまでの空白期間」を埋める手段としても人事代行の活用が広がっています。
採用代行(RPO)との違い
採用代行(RPO)は、人事業務のうち「採用」に特化した外部化サービスです。母集団形成からスカウト送信、面接調整までを専門チームが担うため、採用を短期間で強化したい場合に向いています。一方、人事代行は採用に加えて入退社手続きや労務事務まで広く任せられる点が違いです。
「採用だけ強化したい」ならRPO、「人事機能そのものが不在」なら人事代行、と課題の所在で選び分けるのが実務的な判断です。スタートアップやベンチャーで人事1人目を採用する前の段階では、まず人事代行で業務を標準化し、その後に内製化する流れが失敗しにくい進め方です。
社労士も含めた3者の違いを整理すると次のとおりです。
| 観点 | 人事代行 | 採用代行(RPO) | 社労士 |
|---|---|---|---|
| 対応範囲 | 採用+労務+教育まで広く | 採用に特化 | 法定手続き・規程・労務相談 |
| 向いている課題 | 人事機能が不在 | 採用を短期間で強化 | 手続き・規程の適法性担保 |
| 費用感 | 月3万〜50万円 | 月30万〜80万円 | 顧問料月2万〜5万円+手続き単価 |
実務上は「人事代行+社労士提携」の組み合わせが基本形で、採用の火力が必要なフェーズだけRPOをスポットで重ねる、という使い分けが費用効率的です。
失敗しない人事代行の選び方3つのポイント
社労士との連携体制があるか
社会保険手続きや労務相談まで見据えるなら、社労士が在籍しているか、提携体制があるかを確認しましょう。労務は法改正への追従が必須の領域であり、資格者の関与がない体制では対応範囲が限られます。商談時には「入退社手続きはどこまで対応し、どこから社労士に渡すのか」を具体的な業務名で質問し、回答が曖昧な会社は避けるのが無難です。
自社の採用チャネル・ツールに対応できるか
求人媒体、ダイレクトスカウト、リファラルなど、自社が使う採用チャネルの運用経験があるかを確認します。勤怠・労務管理ツールへの対応可否も、引き継ぎ工数を左右する重要な確認項目です。既に使っているツールがある場合は、ツール名を伝えた上で「同ツールでの運用実績が何社あるか」まで確認すると、立ち上がりの速さを見積もれます。
他のバックオフィス業務とまとめて相談できるか
人事の課題は、経理・総務の課題と同時に発生していることがほとんどです。委託先を業務ごとに分けると窓口管理だけで負担が増えるため、バックオフィス全体を一括で相談できるパートナーを選ぶと運用が安定します。費用の全体感はバックオフィス代行の費用相場の記事を参考にしてください。
人事代行のよくある失敗3つと対処法
失敗1:丸投げして社内に知見が残らない
症状:数年後に内製化しようとした時、業務手順が代行会社の中にしかなく、引き継ぎに数ヶ月かかる。
対処法:月次レポートと業務手順書(マニュアル)の納品を契約に含めます。「契約終了時に手順書一式を引き渡す」条項を入れておくと、内製化やベンダー変更の際もスムーズです。
失敗2:業務範囲の線引きが曖昧で「こぼれ球」が発生する
症状:イレギュラー対応のたびに「それはスコープ外です」と言われ、結局社長や現場が巻き取っている。
対処法:本記事の早見表のような業務一覧を使い、契約前に○×△を1業務ずつ確定します。運用開始後も四半期ごとにスコープを見直し、こぼれ球が多い業務は追加委託か内製かを判断しましょう。
失敗3:社労士・税理士との連携不全
症状:算定基礎届や年末調整の時期に「誰が何をやるのか」で混乱し、期限直前に書類が集まらない。
対処法:窓口を人事代行会社に一本化し、社労士・税理士を含めた年間カレンダー(算定基礎届・賞与支払届・年末調整・労働保険年度更新)で、各イベントの分担と締切を年初に合意しておきます。
まとめ:人事代行は「人事1人目の前」に使う中間解
人事代行は、月3万円前後の労務事務代行から月20万〜50万円の全般委託まで、課題に応じて範囲を選べる外部化手段です。採用特化ならRPO、人事機能全体の不在なら人事代行という切り分けで検討し、社労士連携と対応チャネルを確認して選びましょう。
私たちZEETAのバックオフィス代行「社長の盾」は、人事・労務まわりの実務を経理・総務とあわせて一括でお引き受けし、経営者が採用の意思決定に集中できる体制をつくります。現状整理だけのご相談も歓迎です。ひとり社長・少人数経営での業務の外し方はひとり社長のバックオフィスの記事も参考にしてください。
この記事の執筆者
坂山 泰治(株式会社ZEETA 代表取締役)。バックオフィス代行「社長の盾」で、中小企業・スタートアップの人事・労務・経理まわりの実務を月額10万円から支援。人事機能の立ち上げ支援の実務経験に基づき本記事を執筆。プロフィール詳細はこちら
よくある質問(FAQ)
人事代行にはどこまで依頼できますか?
採用実務(媒体運用・応募者対応・日程調整)、入退社手続きの書類準備、勤怠集計・給与計算、労務相談の一次対応、研修・評価制度の運用まで依頼できます。ただし社会保険手続きの申請代行は社会保険労務士の独占業務のため、社労士の関与が必要です。
人事代行の費用相場はいくらですか?
労務事務のみなら月3万〜10万円、採用実務の代行は月10万〜30万円、人事業務全般では月20万〜50万円が目安です。人事担当者1名を採用する場合の人件費と比べ、必要な業務だけを切り出せる分、立ち上げ期は費用対効果が高くなります。
採用代行(RPO)と人事代行はどちらを選ぶべきですか?
「採用だけを短期間で強化したい」ならRPO、「人事機能そのものが不在」なら人事代行が向いています。人事1人目を採用する前に人事代行で業務を標準化し、その後内製化する流れが失敗しにくい進め方です。
従業員数名の小規模企業でも人事代行を使えますか?
使えます。従業員数名の段階では労務事務のみ(月3万円前後〜)のスモールスタートが一般的で、採用が本格化したタイミングで委託範囲を広げる使い方が費用効率的です。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、税務・労務・法務等に関する専門的助言を行うものではありません。内容は執筆・更新時点の法令・制度に基づいており、その後の改正等により最新の情報と異なる場合があります。個別の事案については、税理士・社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。なお、株式会社ZEETAのバックオフィス代行サービスでは、法令上専門資格が必要な業務は行わず、お客様の顧問税理士等の専門家と連携する形でご支援します。